2018.03.15
・パンチングメタルは打ち抜いた金網
身近な日用品から産業分野まで、金網はさまざまな場面で使われています。金網はその名の通り、金属の線材を網状に織り込んだ製品です。餅を焼く時の焼き網や敷地の境界に立てられるフェンスを思い浮かべる人もいるでしょう。かつて手作業で織られていた金網づくりは製造方法の近代化に伴って機械化が進み、半世紀ほど前から織物だけでなく、素材を打ち抜くパンチングメタルが普及しました。つまり、パンチングメタルは織り上げるのではなく、金属などの素材をプレス加工で打ち抜いた金網です。
パンチングメタルを扱う多くのメーカーがザルや濾(こ)し器、網戸など、生活に根ざした製品を手がけていました。昭和30年代の高度経済成長期になると建築業や製造業からの需要が増えます。特に、重化学工業の発展に果たした役割は大きく、プラントや造船向けの工業フィルターとしてなくてはならない存在となりました。パンチングメタルは現在、水処理施設、石油化学工場、鉱山、製鉄所などインフラを担う現場や医薬品製造、食品工場、リサイクル工場など、幅広い産業分野で使われています。
その用途は主に液体(水、オイル)、固体(固形物、粉末)、気体(空気、ガス)の選別に用いるスクリーンやフィルターです。このように、パンチングメタルは対象物が孔(あな)を通ることで必要なサイズに選別される重要な工程に関わっているのです。金網としてのフィルター用途のほか、モニュメントのような意匠性・デザイン性を求められる場面でも積極的に使われています。
・パンチングメタルは「穴」ではなく「孔」
前項で「対象物が孔を通る~」と書いたように、パンチングメタルでは「あな」を「穴」ではなく「孔」と表記します。孔と穴の違いは、貫通しているかどうかです。ですから、5円硬貨や50円硬貨に開いているのは孔で、鍾乳洞などの洞穴は穴です。パンチングメタルの大きな役割の一つは液体や固体、気体などを通して選別することですから、貫通していないと困ります。ですから、穴ではなく孔なのです。
ちなみに、孔は針孔、障子の孔、靴下の孔など、小さく突き抜けたあなの場合にも使われます。こんなところにも、パンチングメタルの役割が表れているようです。なお、同じあなでも鉱物を採掘するために掘った大きなあなは「坑」と書きます。石炭を掘るためにあけられた炭坑などがその例です。国語辞典の解説ようになってしまいましたが、もともと金網から始まった「選別」機能が進化したパンチングメタルにとって、いかに孔が重要であるかを知っていただきたいので、あえてスペースを割きました。
・英語なのに英語圏で通じない?
パンチングメタルの性能を左右する孔について主に漢字の表記にこだわってみてきたので、英文表記についても考えてみましょう。片仮名で表記されるので、パンチングメタルは英語かと思われがちですが、実は英語ではありません。強いて言えば、和製英語です。その証拠に英語圏の外国人に「Punching metal」といっても通じません。例えば、日本では必ず通じるノートパソコンも和製英語で、海外ではラップトップと呼ばなければ理解されません。
それと同じで、一見、純粋な英語と思われるパンチングメタルで通用するのは日本国内だけ。英語圏では同じ意味を「Perforated metal」といいます。直訳すると、付加価値のあるメタルです。付加価値のある、という表現からも、パンチングメタルが日用品から産業用途まで、私たちの生活に深く関わる製品であることが分かります。
参考までに、中国語では「穿孔金属板」と書くようです。これなどは、むしろ、日本語の意味をそのまま置き換えた印象があります。穿孔という部分にパンチングメタルの存在感が感じられます。